VanLife 日本の旅Vol.4 ノマンドランド
ラスベガスから北東方向100キロほどのところに、「Valley of Fire 」という州立公園がある。
小さな州立公園ながら、波打つようなレッドロックの景観が素晴らしく、一昨年の3月、そこでキャンプしてトレイルを歩いた。
そしてビジターセンターに行って、公園の資料を貰って出発しようとしたら、一台のバスがビジターセンターの駐車場に停まり、そのバスから降りて来た日本人の女性に声をかけられた。

「木村東吉さんですよね! 私の幼馴染が木村さんがモデル時代からのファンで、一緒に写真を撮ってもらってもいいですか?」
もちろんと応え、並んでスマホのカメラに収まる。
ボクがモデルとして仕事をしていたのは、もうすでに30年前のことで、今の若い世代の人々の記憶にはほとんど残っていない。日本国内でさえ、そうやって声をかけられることがめっきりと減ってしまったので、こういうアメリカでも知名度の低い州立公園で声をかけられることは、とても嬉しいことである。
写真撮影の後、互いに無事に旅を続けることを願い合って、その場を後にした。

それから約1年半後の昨年末、彼女から連絡が来た。
今は本当に便利な時代となり、昔は互いの連絡先を教えないと、それっきりの関係に終わってしまうが、今ではちょっとググれば、なんとか連絡先を調べることが可能な時代になった。
連絡してきたのは、今、ロードショーで話題の映画「ノマドランド」を観て、その感想を貰えないか? という依頼であった。
「Valley of Fire 」で会った時には、当然のことながら彼女の職業は訊ねなかったが、映画配給会社でPRを担当しているという。

「ノマドランド」については多少の前知識があった。
一人の女性が仕事や家を失い、それでも逆境に負けないでVanLifeを続けるという物語である。しかも主演は3年前に「スリー・ビルボード」で主演女優賞でオスカーに輝いたフランシス・マクドーマンドである。
公開されれば是非、観てみたいと思っていた作品だった。
試写の誘いに飛びつきたかったが、試写が行われる年末の東京の日比谷に行くことは躊躇われた。もちろんコロナの問題である。
せっかくのオファーに、申し訳ない残念な気持ちでいっぱいだったが、丁重にお断りをしたら、彼女も事情を十分に察してくれ、またなにかの機会があればお願いしたいと告げた。
それから一ヶ月して、再度、彼女から連絡があった。
限定的に映画をダウンロードをして、試写が可能になったという。
だがその連絡があったのが、我々がVanLifeの旅に出発する3日前。彼女が指定する日は旅の最中である。
だがいろいろと調整していくと、ちょうどホテル宿泊の日に、映画の試写が可能だと分った。
確かに我々は長いVanLifeの旅に出た。が、たまにはきちんとシャワーを浴び、溜まった洗濯物をランドリーで綺麗に洗い、清潔なシーツを敷いた快適なベッドで眠る日も必要だった。一週間に一度くらいの割合で、そういう日を設けていたが、ちょうどその日に試写が可能になったのである。
が、ダウンロードして試写を鑑賞できるのがきっかり24時間。ホテルのチェックイン、チェックアウト、移動時間などを考慮すると、早朝にダウンロードして観るしか選択肢はなかった。
ということで、朝の5時に起床して、PCにダウンロードして視聴することになった。

だが13インチの狭い画面からも、アメリカの荒野を一台のVanが駆け抜けるスケールと、それぞれの人生が焚き火を囲んで語られる、情緒溢れるシーンが、ひしひしと胸に迫る。しかも主人公が旅を続けるVanは、我が愛車とまったく同じフォードのエコノラインではないか!
狭いホテルの部屋で、やはり狭いPCの画面で「ノマドランド」を観たのは、自宅を出発して7日目の早朝だったが、それからさらに続く30日以上のVanLifeに、小さいながらも強いインパクトをボクに与えた。
もちろん自分自身は仕事や家を失った訳ではない。が、己がVanLifeを続けるのは、怒涛のような消費文明の中、日常の物欲から距離を置き、自分にとって本当に必要なモノ、あるいは必要な対人関係、さらには必要な仕事を見極める為でもあるのだ。
そういう意味に於いては、この映画の登場人物たちと、少なからず共通点を見出すことができる。

物欲主義の象徴とも言える「家」を捨て、荒野を彷徨する主人公。それでも僅かな収入を得るために厳しい季節労働で賃金を稼ぐが、その一つの方法として、これまた物欲主義の象徴でもある「Amazon」で短期労働の職を得るアイロニーに、監督のクロエ・ジャオのウィットを感じた。