VanLife 日本の旅Vol.7 焼き物の町で出会ったカナディアンその1

COLUMN

2021年05月24日

 一応、今回の旅の最終目的地は阿蘇である。阿蘇の外輪山を自転車で走ることが目的のひとつである。

 「一応」と言ったのは、VanLife、いや己の旅すべてがそうだが、目的地はあってないようなモノで、後で旅を振り返ると、主目的が従であったり、途中に寄り道したところが、自分にとって大きな意味を持つことがしばしば起こる。

 しまなみ海道の大三島で、とても興味深い日本の歴史を学び(前号参照)、そのまま北上して再び本州に戻り、タコバス(注:Vanの愛称)を西に走らせた。

 山口県の岩国で錦帯橋を訪れ、その橋の緻密な構造に目を見張り、さらに西に向かう。

 呆気なく関門海峡を渡り、旅を始めて約3週間目で、我々は九州の地を踏んだ。

 18歳の時にアルバイトの仕事で九州に来たことがある。その後、モデルの仕事をしている頃に、何度も博多や小倉を訪れた。その他、モデルの仕事以外でも、九州にはなんども来ているが、改めて振り返って考えると、自分の運転で九州の道を走るのは、その18歳の時以来、45年ぶりのことである。

 45年前の若き日の九州の道の印象は、空が広く、大地が無限に拡がり、ごちゃごちゃとした大阪の市街地を走るのとは、大きな隔たりがあるように感じたものだ。だが今では当然のことながら、至るところ、縦横無尽に高速道路が走り、他の都市との隔たりはあまり感じられない。

 次々と移り変わる高速道路の標識と、スマホのナビゲーションを確認しながら、伊万里に到着した。

 伊万里の町を走っていると、橋の欄干にも伊万里焼の壺が配され、さすがに「焼き物の町」だなあ・・・と実感させられるが、残念なことに、伊万里の市内でそのような陶磁器に出会うことはない。

 市内を外れ、山奥深くに窯元があるのである。現地でさらに調べて行くと、伊万里焼の窯元は山深いところにあるが、有田焼の窯元なら、市内からのアクセスもラクだという。

 わざわざ遠くから来たので、伊万里焼の窯元も訪れたかったが、生憎、我々が到着した日は、この地方では珍しく雪が降っており、交通トラブルのリスクを避け、有田焼の窯元に向かうことにした。

 それに実は、その日の宿泊予定のRVパークが、有田焼の窯元の敷地内にあったのだ。

 そのユニークな窯元&RVパークの「幸楽窯」に到着すると、窯元で働く女性が、親切に場内を案内してくれる。屋内で煮炊きができる台所、トイレの場所等。

 そして「別に買わなくてもまったく問題ないですけど、一応、説明しておきますね!」と笑顔で言いながら、陶磁器の販売所に案内される。

 そしてそこで一人の陶芸家を紹介された。

 「彼女はカナダから陶芸の勉強にやってきたジェレミーです」

 ジェレミーと挨拶を交わし、カナダ人と出会った時に必ずする話題を持ち出す。

 「以前、アルゴンキン州立公園をカヌーで旅したことがあるんだけど・・・」

 アルゴンキン州立公園は熊本県と同じ面積を持つ広大な公園で、その中には湖と川を繋ぐ水路が約1300キロ続いている。そのうちの約90キロを、5日間かけて、カナディアン・カヌーで旅したのである。雑誌「ターザン」の取材の為の旅であったが、いつまでもその記憶は鮮明に残っている。

 その話をするとジェレミーは目をまん丸く見開いて言った。

 「私は生まれてからずっと、毎年、夏はアルゴンキンでキャンプをしていたの!」

 そして慌ただしく自分のスマホを操作して、彼女がカヌーを担いている写真をボクに見せた。

 カヌーを担いで山を超えることを「ポーテージ」と言うが、そのポーテージはアルゴンキンのカヌー・シーズンを代表する「風物詩」といえるのだ。

 「私は最長、アルゴンキンで42日間、キャンプしたことがあるわ!」とジェレミーは興奮気味で続ける。

 あーあ。こんなところで、こんな人に出会うとは!

 続く。