VanLife 日本の旅Vol.10 阿蘇で出会った爽やか自転車青年

COLUMN

2021年06月30日

 旅に出る時、旅先の情報をあれこれ収集するが、海外の場合は日本で詳しく紹介されていないところも多く、その場合は現地で出たとこ勝負となる。

 今回の旅のとりあえずの折り返し地点は阿蘇である。阿蘇の外輪山を自転車で走る。これが旅の目的のひとつである。ところが阿蘇の外輪山の情報が、どこをググっても曖昧である。で、曖昧のまま阿蘇に到着した。

 阿蘇での宿泊は「RVパークB&B阿蘇」というところで、阿蘇五岳と外輪山が遠望できる田園地帯の中にあり、阿蘇駅までも約10分くらいの位置にある。

 一旦、RVパークにチェックインした後、さっそく阿蘇駅に向かい、外輪山の情報を収集する。ところが詳しい話を聞くうちに、どうやら外輪山、ぐるっと一周するコースはないようだ。一旦、町まで降りてきて再び登って一周は可能だが、そこまでする必要があるかどうか。

 ということで外輪山の北側を半周することにした。

 RVパークから田園地帯を東に走り抜け、古城郵便局あたりから城山展望台を目指す。この標高差が約600メートル。これはかなり厳しい登りだ。

 実はボクの自転車はフロント・シングルと言って、前のギアが一枚だ。

 これまでの多くのロードバイクやマウンテンバイクは、フロント3枚とリア9枚から11枚を組み合わせ、27段から33段くらいのギアを選択できたが、まずはそこまでのギアを使うか? という疑問に加え、ギアの選択を考える煩わしさ、さらにはフロントギアのトラブル回避など、フロント・シングルには様々なメリットがある。

 同じロードバイクに乗っていても、長距離、ヒルクライム、スプリントと、目的は様々なので、すべての人にフロント・シングルが適しているとは思わないが、少なくともボクはこの選択に満足している。だが、この外輪山のような形状の道路を走るのには、フロント・シングルでは体力勝負となる。

 これまでになんども御殿場から山中湖に通ずる「籠坂峠」を制覇してきた自負から、なんとか城山展望台までバイクから降りなくて走りきったが、正直、なんども心が折れかけた。

 城山展望台から外輪山の中にある田園風景を見下ろす。

 些かの達成感と、直線的に規則正しく碁板の目のような田園とそれに続く町並みが眼下に拡がる。

 ここからは多少の上り下りはあるが、気持ちのいい草原が続く。

 久住連山へと続く「やまなみハイウェイ」から45号、通称「ミルクロード」を左折し、次は外輪山でももっとも展望が良いとされる「大観峰」を目指す。

 「大観峰」に到着し、そこに自転車を置いて、徒歩でさらなる高みを目指して展望台の頂上へと歩く。

 眺めのいいテーブルとベンチを見付け、そこでランチ。朝食の準備の際についでに作ったホットサンドを頬張り、赤ワインをほんの少し。早春の陽射しが心地いい。

 食後にしばらく眼下に拡がる眺望を見つめ、いろいろなことに思いを巡らせる。

 河口湖の自宅を出て、いろいろなところに寄り道をしながらここまで2500キロ。車齢25年の我がタコバスもよく走ってくれる。すでに一ヶ月以上、VanLifeを続けているが、毎晩、快眠。快適な旅を我々に与えてくれる。

 少し寒さを感じたので、バッグから上着を取り出し、それを着て山を降りる。

 自転車を停めてあるところにたどり着くと、半袖の真夏のような服装で、尚且、額に汗を浮かべている青年と会った。

 大阪から自転車に乗って旅を続けているという。

 こういう出会いも、自転車ならではの出会いだ。おそらく自分の子どもたちより若いだろう。ということは年齢差は35歳以上もある。が、辛いヒルクライムを懸命に登って来た気持ちは同じである。

 互いに麓からの激登りを称え合い、いつか富士五湖方面に来ることがあれば、訪ねて来てくれと言って別れる。

 あとはラクな下りのみである。

 国の内外を問わず、旅でいつも感じることだが、ひとつの目標を達成すると、ちょっとした虚無感に包まれる。

 だがまだまだ旅は続くのだ。

 ここで脱力している場合ではない、と自分自身に激を飛ばす。

 今夜はタコバスの中でささやかな祝杯を挙げ、少しだけ夜ふかしをしようか。

 そんなことを頭に浮かべながら、つづら折りの坂道を疾走して行った。