Paddle 4 Life 西湖で楽しむカヤックライフ

COLUMN

2021年09月03日

 今から30年ほど前の1990年の夏、ボクはちょっと変わっったトライアスロンに出場した。

 通常のトライアスロンは最初にスイム、次に自転車、そしてフルマラソンの3種の競技をこなすが、そのレースは自転車、マラソン、カヌーの3種の競技をこなす。そしてさらにはミネソタ州を斜めに縦断するのだ。総距離800Km。

 初日に自転車で320 Km 、二日目に同じく自転車で320Km 。三日目はマラソンで80Km 。そして最終日はカヌーを80Km 漕いでゴールである。
実際には3日目までは交代で走るので、その距離は半分になるが、それでもかなり壮大なるレースである。

 ミネソタ州の南にはアイオワ州があり、北側はカナダである。ミネソタ州とアイオワ州の州堺からカナダの国境まで走るので「ミネソタ・ボーダー・トゥ・ボーダー・トライアスロン」という名前が付いている。

 そのレースに出場するために現地でカヌーを購入した。

 ミネアポリスから南に少し行くと「ベルプレイン」という街がある。その「ベルプレイン」のカヌー・ショップに行き、どのカヌーを購入すべきか悩んだ。

 あれこれ悩んでいると、カヌー・ショップの女主人が、「じゃあ一度試してみれば」と勧める。

 「試す」って言っても・・・と怪訝な表情を浮かべていると「こっちについて来て」と彼女は手招きをする。

 彼女の後をついて行って、その光景に驚いた。

ミネソタで出会ったこの光景が、その後の人生を大きく変えた

 ショップの裏庭は綺麗に芝生が敷き詰められており、その美しい緑の庭は、そのままミシシッピー・リバーの支流であるミネソタ川に繋がっている。そしてその川では、日本で皆が自転車に乗るような雰囲気で、カヌーを漕いでいるのだ。

 そこで暮らす人々の日常の中に、カヌーが完全に溶け込んでいる。

 その光景にショックを受けた。カヌーのパドルで頭を殴られたような衝撃だった。

 その瞬間、ボクは固く誓った。

「毎朝、カヌーができるような環境で暮らしたい」

 それから5年後の1995年、ボクは河口湖の畔に家を建てた。もちろんその時には、人にカヌーやカヤックなどを教えることは、まったく考えてなかったし、ましてやレンタルやツアーなど、カヌー、カヤックがビジネスになるとも思わなかった。ただ、ただ、ミネソタでの光景が頭から離れなかっただけだ。

 河口湖に引っ越してすぐに、八王子にある「日本工学院八王子専門学校」でアウトドア実習の講師を務めることになった。その実習は20年ほど続き、多くの学生たちに西湖でカヌーの楽しさを教えた。

 2013年から西湖の北岸にある「キャンプビレッジ・ノーム」をオーガナイズすることになった。荒れ放題のキャンプ場を区画整備し、予約システムを取り入れ、ゲストに楽しいイベントを提供した。

 そのひとつがカヤック・レンタルやツアーである。

 さきほども言ったが、年に一度、「日本工学院八王子専門学校」でアウトドア実習を行っていたが、それ以外にカヌーやカヤックを遊ばせておくのはあまりにももったいないし、我々がプライベートでのツアーから戻っていると、湖畔でキャンプしているゲストたちが、自分たちも同じような経験がしたいと訴える。

 いつのまにか口コミでツアーやレンタルが拡がり、今では年間、500艇以上のカヤックをレンタルし、コロナ騒ぎ以前は、小学校5年生を対象にカヤック教室を開催し、年間1500人ほどの生徒に西湖でカヤックを指導している。

 もちろん西湖カヤックツアーも盛況で、何度もリピートするゲストも居るので、ガイドで話す内容がなくて困ってしまう。

 31年前にミネソタ川の畔で見た光景は、今ではボク一人の夢に収まらず、多くの人々の想い出の1ページを飾ることになった。

 これからも、少しでも多くの人に、静かな湖面を漕ぎ出し、富士五湖の自然の素晴らしさを堪能してほしいと願っている。

>木村東吉がガイドする西湖カヤックツアーはこちら