いつまでも走り続けたいから

COLUMN

2018年06月26日

ランナー、とくにトレイルランナーの中で、足にテーピングを施して走っている姿をよく見かけるが、そういう姿に、有森裕子氏が警鐘を鳴らしている。

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美しい景色の中を走ることは、フィジカルよりメンタルに影響を与える。

 「実業団に所属しているマラソンランナーは、「競技スポーツ」という仕事のために走っているのであって、健康のためではありません。
ゴールすることではなく、メダルを獲得したり、入賞したりすることがミッションですから、多少の痛みが伴うときも、雨の日も練習するのは当たり前といえます。でも市民ランナーは、ランニングが仕事でも義務でもありません。
憧れのマラソンランナーの練習法やメソッド、シューズなどのアイテムをまねしたくなる気持ちは分かりますが、彼らと同じようにチャレンジし、苦しいときや痛いときも我慢して走り続ける必要は全くないのです」

 これが有森氏の持論だ。

 ただトレイルランナーの中には、テーピングをファッションとして捉えたり、あるいは「故障予防のお守り的存在」としているランナーもいるので、有森氏が心配するほど、シビアに故障していないかもしれないが、あるスポーツ用品メーカーが20~39歳の男女を対象に実施した調査では、ランニングを始めて1年以上継続できたランナーは約24%にとどまり、68%の人が半年以上継続できないという結果が出た。 
単に止める人の意思が弱いということも原因の一つだと思うが、怪我が原因で走ることを止める場合も多いと言われている。
確かに有森氏の指摘するように、「走る」ことが仕事ではない限り、怪我しても走る理由はどこにも見当たらない。
 
 実は2週間ほど前に、人生で初の肉離れを体験した。「キックボード」という乗り物があるが、その「キックボード」の車輪を、小型自転車の車輪に変えたような乗り物を所有している。5Lakes&MTのショップにはトイレがないので、近くの公衆トイレまで、その乗り物に乗って行くのだが、その途中でフクラハギの肉離れを起こしてしまったのだ。

 さっそくネットで調べると、肉離れの原因は主に2つ。

 一つは運動不足。

 日頃、運動しないで、突然、子どもの運動会などで急に頑張り過ぎた結果、肉離れを起こすと言われている。
 もうひとつはストレッチ不足。きちんと準備運動をしないで、いきなり筋肉に負荷を掛けると起こると言われている。
 週に約50キロ以上は走っているので、運動不足という原因は考えられないので、おそらくストレッチ不足が原因だと思う。それに歳も歳だ。いくら日頃、走っているとは言え、突然の動きには付いて行けないのだろう。

さあ困った。

 その翌週(先週の日曜日)は、5Lakes&MT河口湖店オープニング・イベントで、参加者と一緒に10キロ走らなければならない。

 有森氏の警鐘は十分に理解できる。100%合意する。プロのランナーじゃなければ、怪我してまで走る必要はない。が、走ることが仕事ではないが、「走るイベント」が仕事の一部であることは確かだ。

 さあ困った。

 実は怪我が原因で走れなくなったのはこれで二度目だ。

 今から5年前の春、ある日、突然、左足の膝が痛んだ。すぐに痛みは引いたが、よく見ると、膝のあたりが腫れている。触ってみると、少しぶよぶよしている。病院に行って精密検査をして貰うと、膝に水が溜まっているらしい。その水を注射器で抜いて貰うと、それは黄色く透明に透き通っている。なんらかの悪い原因があると、その膝の水は血などで濁るらしい。

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 「まあそんなに心配することはないでしょう!」と言われて病院を後にするが、2週間ほどすると、また同じように溜まる。

 そんなことを繰り返して4ヶ月ほど走れない日が続いたが、秋に諏訪湖でハーフマラソンを走る頃には、いつの間にか膝に水が溜まることはなくなった。

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コッパーキャニオンの80キロは12時間半掛けてなんとか完走した。

 それから約4ヶ月後にメキシコの「コッパーキャニオン」で80キロのトレイルをワラーチで走ることになったが、本音は言えば、膝が完璧ではなかったし、その程度の準備で、その距離を走るのは、些か無謀だと自分でも思った。

 繰り返すが、決してプロのランナーではないのだ。無理して走る理由はどこにもない。

 が、これだけ長いランニング人生を過ごしていると(すでに35年くらいになるか・・・)、一度や二度、切羽詰まった状態になる時もある。

 その「切羽詰まった状態」に2週間前に陥ってしまった。「切羽詰まって」ネットを探ると、肉離れには「RICE」との情報に突き当たった。

 1. Rest(安静にする)
 2. Ice(冷やす
 3. Compression(圧迫)
 4. Elevation(挙上)

 これらの頭文字を取って「RICE」というワケである。炭水化物を一杯食べろという意味ではない。

 素直に実行した。
 日曜日に肉離れを起こし、木曜日まで安静にして、湿布を施し、包帯でフクラハギを締め付け、偉そうに足を高いところに乗せて過ごした。金曜日に少し走り、土曜日には8キロ走った。

 で、いよいよ本番。
 参加者の誰にも肉離れしたことに気付かれずに(アシスタントのカホと娘の二人は知っていたが)、なんとか無事にイベントを終えた。
 そしてその週の週末には、河口湖一周16キロを走れるまでに回復した。

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いつまでも楽しく走り続けたいから、身体の声には耳を澄ませたい。

 ところが・・・
 昨日の日曜日(最初の肉離れからちょうど2週間後)、また同じ箇所に肉離れを起こした。またまたネットを探ると、同じ箇所の肉離れは頻繁に発生するとか。そしてもちろん、最初の肉離れを起こしてから、「RICE」の「R」、つまり休養が短すぎたのだ。イベント本番で走れたことに気を良くして、再び、足を酷使し過ぎたのである。

 ネットにはこうも書いてあった。
 「肉離れは、筋肉からのメッセージです。ちょっと休んで筋肉を労りなさい、というメッセーです」
 自分の筋肉だから、自分の好きなように使っていいワケではないのだ。筋肉が「イヤイヤ」している時は、その声に従って休ませるべきなのだ。

 この歳になって、ようやく気付くことが出来たが、ランニング人生はまだまだこれから続くのだ。これからは筋肉、いや、筋肉だけに限らず、己の肉体のあらゆる部分に耳を澄ませて走り続けたい。
 
 メキシコの「コッパーキャニオン」が主舞台になるベストセラー「Born to Run」には、このように書かれてあった。
 「老いるから走れなくなるのではない。走らないから老いるのだ」
 ごもっともでございます。
 
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