憧れのVanLife9 旅の真髄

COLUMN

2019年08月12日

前回、Netflixが配給する「究極のハピネスを求めて」というドキュメンタリー作品を紹介した。ニューヨークで中古のスクールバスを手に入れたドイツ人の男女が、カナダからアラスカ、メキシコを旅するという内容である。

実は今春にグランドキャニオンで知り合ったオランダ人夫妻が、彼らと似たような旅を続けていることを最近知った。

マーチンとレイン夫妻に最初に会ったのは、グランドキャニオンの底「ブライトエンジェル」のキャンプ場である。彼らは我々の一つ離れたサイトにテントを張っており、おそらく互いに同年代と気付き、笑顔で会釈を交わした。

翌朝、我々がノースリムを目指して「ブライトエンジェル」を後にしようとした時、まだそこに滞在していたレインが声を掛けて来た。

「どこまで行くの?」

「ノースリムだよ」とボク。

「そのままハイクアウトする予定?」とレイン。

「いや、ノースはまだたっぷりと雪は残っているから、明後日にはここに戻って来るよ」

「OK! じゃあ気をつけてね」と、レインは我々を笑顔で見送った。

それから約2時間。我々が重いザックを下ろして休憩していると、レインとマーチンが空身(リュックを背負わず手ぶら。厳密には飲み物が入った小さなリュックを背負っていたが)で我々に近づいて来た。

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グランドキャニオンで出逢って・・・

「やあ! また会ったね。どこまで行くの?」と水を飲みながらボクは尋ねる。

「別に目的地はないけれど、少し歩いてみようか・・・ということになってね」とマーチンは汗を拭きながら答える。

「それじゃあこの先、1時間ほど歩いたところに、リボンフォールをいう綺麗な滝があるみたいなので、そこに行けば! もちろん我々も行くつもりだ」と勧めた。

実はグランドキャニオンのサウスリムからノースリムまで往復するのは、昨年に続いて2度めのことだ。

昨年は2泊3日の慌ただしい行程で、脇目も振らずに歩いたが、今年はもっとじっくりとここの自然を堪能したいと思い、4泊5日の行程を計画した。ノースリムに行く前に、このリボンフォールに寄ることも計画に含まれていた。

我々がリボンフォールにたどり着くと、すでに二人は滝に到着して、携帯食を食べながら静かに滝を眺めていた。

「素敵な場所を教えてくれて有難う」とレインは微笑む。

そしてその後の計画を互いに知らせたが、彼らはかなり長期の旅を考えており、綿密なプランはないようだった。が、我々がグランドキャニオンのあと、セドナに行くことは伝えてその場で別れた。

そして4日後。

セドナに到着して、溜まった洗濯物をコインランドリーに入れ、そのコインランドリーの隣にある古着屋で、なにか掘り出し物がないか・・・と探していると、そこでばったりレインに会った。

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セドナで偶然の再会。

「どうしてここに・・・」と呆気に取られていると「あなたがセドナがいいところだと勧めてくれたから、あの後にすぐに来たの。明日にはもうここを去るけど」とレインは笑顔で話す。

その後、近くでショッピングしていたマーチンとも再会して、互いの現況などを立ち話した。

どうやら彼らはオランダの自宅を処分して、長期でアメリカを旅する予定のようだった。

帰国して、ボクのインスタをマーチンがフォローしてることに気づき、ボクもフォローを返した。それから時々、彼らの行動をインスタを通じてチェックした。

グランドキャニオンの出会いから約3ヶ月後の6月中旬、彼らはカナダのバンクーバーに居た。中古のホンダのオデッセイを手に入れ、時にはそのクルマで、またある時はテントで寝泊まりしながら旅を続けていると連絡があった。

ちょうどその頃にVanLifeを始めたボクに対し、「大きいクルマが羨ましいよ」と言ってきたが、ボクはいくら狭いクルマでも、自由気ままに北米大陸を旅する彼らが羨ましかった。

そしていったいいつまで旅を続けるのか? というボクの質問に対し「きっと時がそれを教えてくれる」とマーチンは答えた。

綿密な旅の計画を練るのではなく、自分の素直な心の内に耳を傾け、気ままに旅を続ける・・・・そんな詩的な旅を続ける彼らが、本当に羨ましかった。

先週、彼らはイエローストーンの国立公園で、キャンプとトレッキングを楽しんでいた。「まだ旅を続けているのか!」と連絡したら、「あともう3ヶ月ほど」と答えが返って来た。オランダに帰る前に日本に寄らないか? と提案したら、3ヶ月後の財布と相談してみるとジョークを返して来た。

だがそれが100%、ジョークではないことをボクは知っている。こんな旅をしていても、彼らのスタイルはとても質素だ。時には農場の手伝いとかもすると言っていたし、

服装や持ち物だって、とてもシンプルである。

我々も一ヶ月のアメリカ滞在中、外食することは2度か3度ほどだったが、彼らはもっと節約しているに違いない。

だが旅の楽しさは、決して予算に比例しない。

本人の意思や志の高さに比例するのである。

そしてなによりも、世間の常識やカタに嵌らない自由な精神が、旅を、人生をより豊かに彩る。

彼らは遠くで旅を続けながら、そんな素敵なメッセージを送ってくれるのだ。