VanLife 日本の旅Vol.3 オイスター・ライド

COLUMN

2021年04月14日

 1月末から1ヶ月半近く、VanLifeの旅に出た。

 母と姉が眠る奈良の墓にお参りし、同じく、幼い頃から通い続けている霊山に詣で、瀬戸内経由で岡山の牛窓にやってきた。

 牛窓のRVパークはとても快適で、そこに3泊することになった。到着したその日は、あまりにも美しい景色が眼下に拡がっているので、昼から冷えたシャルドネを一本空けてブランチを堪能したが、二日目は自転車に乗って港町を訪れた。

 11時のフェリーに乗って、牛窓の沖合に浮かぶ「前島」をサイクリングしようという魂胆である。

 フェリー乗り場に確認に行くと、その横に幟旗が立っていた。

 「週末限定 牡蠣小屋」

 どうやら「前島」の船着き場に、週末だけ開店している「牡蠣小屋」があるようだ。

 腕時計を確認する。日曜日だ。週末限定ということは日曜日も含まれているはずだ。期待に胸が膨らむ。

 再び腕時計を見た。フェリーの出発まで40分ほどある。

 我々は港町に望む「しおまち唐琴通り」(前号参照)を散策することにした。

 潮風からのダメージを防ぐためなのか、家々の木造の壁が炎に炙られ、漆黒に黒光りしている。集落の中心には井戸があり、今にも洗濯物を抱えた主婦たちが集まりそうな気配である。

 かつて銀行だった古い建物の中に入っていくと、往時を忍ばせる牛窓の賑わいを感じさせる写真がたくさん展示してあった。

かつては中國銀行の支店だったが、今では「街角ミュゼ牛窓文化館」に変わり、牛窓の歴史や文化を伝えている。

 100年も前の時代に一瞬、タイムスリップしそうになるが、時間も迫って来たので、我々は再び自転車に跨ってフェリー乗り場へと急ぐ。

 自転車+人間、往復320円の運賃を払って、前島へと向かう。海から吹く風がとても寒いが、わずか10分ほどで到着。

 船から降りたら目の前にお目当ての牡蠣小屋があり、そのまま蛾が光に吸い込まれるよう入って行きそうになるが、なんとかその誘惑を振りほどいて自転車に跨って走り出す。

 前島のサイクリングコースは8の字を描くように15キロほど走ることができ、島の中心の展望台にも登っていける。さすがに最後は自転車から降りて歩かなければならないが、展望台に向かって歩き始めたら、石切場があった。

 説明看板を読むと、ここで切り出した石で、大阪城のお堀を築いたと言う。

 石を切り出す作業も、もちろん重機なんて当時はないから手作業だし、それを港まで下ろすこともすべて人力だ。

 確かにあのピラミッドを作らせたエジプトの王も偉大だったに違いないが、日本の各所では築城の為に、このように遥か離れた小島から石を切り出し、それを船に乗せて運び、その城の礎としたのである。

 歴史のロマンを感じると共に、あまりにも果てしない労働に従事した庶民たちの労苦を思うと、ちょっとした目眩も感じる。

 そんな思いを振り払うかのように、頭を左右に降って、さらに展望台へのトレイルを歩き始めた。

 頂上の展望台にはちょっとした櫓が組んであり、そこを登っていくと、双眼鏡が設置してある。そこから小豆島の大観音の顔が見える、と説明には書いてあったが、春霞の為に景色が白くかすみ、どれが大観音の顔か、お尻かまったく判らなかった。

 展望台から降りて、再び自転車を走らせる。この島は登るか下りるかで、平坦な道はほとんどない。

 約2時間ほど自転車でのんびりと島をクルーズし、元の港に戻る。

 牡蠣小屋に入って行こうとすると、まず港で牡蠣を選べという。丼鉢より3周りくらい多きなザルを受け取り、そこに港から水揚げされたばかりの牡蠣を入れる。そして秤に乗せると、1キロを切っていた。

 「あともう少し載せられるな!」と牡蠣小屋のご主人に勧められて大ぶりな牡蠣を4つほど載せたら、1キロをかなりオーバーしてしまったが、そんなことお構いなしに、そのご主人はボクが選んだ牡蠣の一部を、小屋の中にあった炭火の網の上に乗せる。

 軍手を渡され、熱で牡蠣が開いたら、そこにオリーブオイルとレモンを絞り、口の中に運ぶ。なんとも言えないオリーブオイルの滑らかで芳香な香りと、レモン、そして牡蠣の潮味が絶妙なバランスで、何個でも食べることができそうである。

 ちなみに1キロ1400円だが、一人では十分な量である。

 オリーブオイルと牡蠣の組み合わせは、この牛窓の観光地「牛窓オリーブ園」が推奨している食し方だと言う。

 イタリア産の白ワインと牡蠣で満腹になり、そのままフェリーに乗って牛窓の港に戻る。
牛窓の港は「日本の夕陽 100選」に選ばれており、そこから瀬戸内に沈む夕陽が本当に綺麗だ。

 あー・・・できればこの港町に、少なくともあと1週間は滞在したいなあ・・・なんて思いながら、ボクは静かに沈む夕陽をいつまでも眺めていた。